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深海におけるセメント系材料の劣化機構について、国際学術誌で世界初発表

2021/01/20 ニュースリリース

宇部興産株式会社(以下「宇部興産」)と、国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所(以下「港湾空港技術研究所」)の研究グループは共同で、深海におけるセメント系材料の利用拡大を目的としたセメントモルタル試験体の暴露試験を実施し、深海におけるセメント系材料の劣化機構について、調査、分析を行いました。その研究結果についてまとめた論文を世界で初めて国際学術誌で発表することになりましたので、お知らせいたします。
本研究成果は、世界的に海洋開発の機運が高まる中、深海という特殊な極限環境におけるセメント系材料の活用方策や海洋インフラの建設技術確立への貢献が期待されます。
本研究は、宇部興産の小林真理研究員1、高橋恵輔主席研究員1、および港湾空港技術研究所の川端雄一郎グループ長2によって行われました。

1 宇部興産 建設資材カンパニー 技術開発研究所 セメント開発部
2 港湾空港技術研究所 構造新技術研究グループ

背景

人類最後のフロンティアと呼ばれる"深海"では、近年、技術の発展によって様々な海洋資源が発見されており、その資源の開発も検討されています。その他にも海洋エネルギー(洋上風力・潮力など)の利用が始まるなど、積極的な海洋開発が進められています。このような背景から、将来的に深海域における海洋構造物の建設が予想され、汎用性が高く耐久性に優れるセメント系材料の利用が期待されます。

研究手法と成果

本研究では、深海域におけるセメント硬化体の力学特性や水和物の変化を把握することを目的とし、2015年12月から2017年7月にかけて、沖縄県多良間島沖約60kmの海底約1,680mにおいてセメントモルタル試験体(以下「試験体」)の暴露試験を行いました(写真1)。試験体の設置及び回収は海洋研究開発機構(以下「JAMSTEC」)と高知大学の協力を得て行いました。設置環境は水圧約17MPa、水温約4℃と、浅海域と比べて非常に過酷な環境です。

608日後に試験体を回収したところ、試験体の表層が際立って変化しており(写真2)、手で触ると表層の一部がはがれ落ちるほどに柔らかい組織へと変化していました。また、試験体の圧縮強さ試験の結果、暴露前と比較して著しい強度の低下が確認されました。

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写真1:深海底での試験体の暴露試験
(写真はJAMSTECからの提供)
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写真2:深海底から回収した試験体

暴露試験後の試験体を分析した結果、試験体を構成する主要な成分であるカルシウムが浅海域では予想できないほど著しく溶脱していることが明らかとなりました。さらに、海水中の炭酸イオンや硫酸イオン、マグネシウムイオンが試験体に浸入し、新たに脆弱な水和物を生成したことで、試験体表層の形状が変化し、強度の低下など物理的特性の変化をもたらしたと結論付けました。
本研究では、主に化学的な劣化に着目して考察を行いましたが、深海域で高水圧が試験体に与えるダメージについてはさらに詳しい検証が必要と考えられます。高水圧の影響とそれに伴う化学的な劣化との関係については、今後、詳しく検討していく予定です。

今後の期待

深海という特殊な極限環境でセメント系材料を利用するための試みは始まったばかりであり、材料設計や施工方法、構造物の設計手法など、多岐にわたる研究開発及び技術の確立が今後求められると予想されます。宇部興産と港湾空港技術研究所は、国内外の大学や研究機関との連携を拡充しつつ、更なる研究開発及び技術の確立を進めてまいります。

本研究は、科学雑誌『Cement and Concrete Research』Vol.142(2021年1月15日オンライン公開)に掲載されます。
タイトル:Physicochemical properties of the Portland cement-based mortar exposed to deep seafloor conditions at a depth of 1680 m

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