UBE/UBE株式会社

REPORT vol.2
CO2ガス分離膜/アジア市場開拓の物語

成熟市場から、未知の新市場へ
UBE㈱
CO2ガス分離膜営業担当

※肩書・担当は掲載当時のものです

01

製品がアジア市場で認められるまでの
私たちのチャレンジ

初期投資と収益の狭間で
「膜式」提案の泥臭い闘い

今回ご紹介するのは、CO2ガス分離膜です。一見するとシンプルな構造ながら、優れた分離性能を有し、過去10年において欧米諸国で広く認知され、普及してきました。発電に利用されるバイオガスからCO2を分離し、メタン(CH4)濃度を90~99%以上まで高めることで、燃料として利用可能なバイオメタンを製造することが、分離膜の主な用途です。
市場成熟度の差はあれども、販売先は欧米諸国に限定されていました。そこで、私たちが次のターゲット市場としたのが、高い経済成長率を見せるインドに代表されるアジア各国です。
しかし、そこは未知の新市場、さまざまな壁が私たちの前に立ちはだかりました。中でも最大の困難は、"初期投資"の壁でした。従来、インドで主流であった吸収式・吸着式のガス分離法は、導入コストが低い一方、メタン回収の効率性や維持費に課題があります。対する膜式の分離膜は、初期投資こそ高いものの運用コストが低く、長期的な収益性に優れています。膜式のメリットをいかにわかりやすく現地顧客に伝えるかが重要でした。
また、会社の認知度や信頼性も大きな壁となりました。顧客からの「メタン回収の効率性を向上させたいが、初期投資は抑えたい」という難題要求に加え、「未経験の技術に対する不安解消」と「技術提供先である当社への信頼性」が重要な課題でした。営業チームは現地顧客への綿密なヒアリングと丁寧な説明を積み重ね、さらに慣れない文化や食習慣に戸惑いながらも顧客と同じ時間を過ごし、課題や想いを理解しようと向き合いました。そうした姿勢とともに、顧客の期待に一つひとつ応えていく継続的な支援が、現地での信頼につながっていきました。その結果、UBEの分離膜が採用され、「メタン回収率の劇的な改善」という大きな成果を導き出したのです。

廃棄物からエネルギーへ バイオメタンを生む
分離膜技術

CO2ガス分離膜は、内製するポリイミド(Report1参照)を材料とした中空糸膜(内部が空洞のストロー状の細い糸)や樹脂製の管板から構成される分離膜モジュールです。日常生活で発生する食品残渣や家畜の排泄物を原料に製造されたバイオガスから"膜式"でCO2を効率よく取り除き、化石燃料代替として利用できるバイオメタンへと濃縮することで、廃棄物からクリーンなエネルギーを生み出すことに貢献しています。
このポリイミド製の中空糸膜をぎっしり詰め込んだUBEのCO2ガス分離膜は、バイオメタンを精製するプラントにとって"心臓部"ともいえる重要な部材です。2000年代から現在まで、主にヨーロッパや北米を中心に500を超えるプラントで採用されており、実績と信頼のある製品です。
02

テクニカル・ハードルへの
私たちのチャレンジ

ロス低減とメンテナンスフリーが生んだ優位性 ロス低減とメンテナンスフリーが 生んだ優位性

顧客のシビアな要求に対し、吸着式・吸収式などの競合システムに打ち勝った分離膜ですが、競合との決定的な差は"コストと性能のバランス"のひと言では片付けられません。分離膜の本当の強みは、「メタン回収率の大幅改善」と「メンテナンスフリー」にありました。
従来の方式では、一般的にはCO2と一緒に必要成分のメタンが10%程度失われていました。これは長期的に見れば大きな収益減です。一方、分離膜(膜式)はそのロスを最小限に抑えられる(0.5%以下)ため、結果として顧客の利益を最大化できるのです。
さらにポリイミド製の中空糸膜は、その素材由来の強靱さから、高度な耐久性、耐熱性、耐薬品性を備えています。過酷なガス精製環境下でも長寿命を保ち、吸収式・吸着式で使用される吸着剤のように定期的な交換部品も必要としません。運転停止を伴う大規模な保守を必要としない点は、プラント稼働率の向上や運営コストの低減に直結します。つまり、初期投資の金額だけでは見えにくい"稼ぎ続ける力"という観点で見たとき、分離膜は大きな優位性を持っているのです。
最終的に顧客が選択したのは、短期的な価格ではなく、長期的な収益性でした。そこに、分離膜(膜式)が選ばれた真の理由があります。

東京から京都まで 小さなモジュールに詰まった
高度な技術

CO2ガス分離膜の真価は、そのモジュール内部にあります。
直径わずか数インチのモジュールの中に、数十万本の中空糸膜が詰め込まれています。その一本一本は髪の毛のように細く、ストロー状の構造を持ち、ストローの穴の中をガスが通過する際に、分子レベルでCO2を分離します。
驚くべきは、1モジュールあたりに充填されている糸の長さです。今回採用された直径8インチサイズのモデルの例では、1本のモジュールに充填されている糸をすべてつなげると、「東京から京都」まで届く距離に相当します。限られた容積に最大限の糸を充填する"詰め込み技術"こそが競争力の源です。
一般的に、同じ処理能力を確保しようとすると、より大型の装置が必要となるケースも少なくありません。「小さくて高性能」。それは、長年にわたって蓄積されてきた製造ノウハウの結晶なのです。
03

CO2分離膜が
拓く未来への
私たちのチャレンジ

アジアの空気を変える その先にある脱炭素の未来

このプロジェクトは一つの成功にとどまりません。インドでは2030年までに数千件規模のバイオメタンプラント建設が予定されており、市場はこれから爆発的に拡大する可能性を秘めています。
今回の挑戦で築いた信頼関係は、実際に、その後の受注拡大へとつながっています。1件の成功が次の10件、100件へと連鎖していけば、それだけ化石燃料への依存度が下がり、CO2排出量の削減に貢献できます。そして、将来的には、世界の中でも深刻な社会問題となっているアジアの大気汚染改善にも貢献できるはずです。
その未来は一朝一夕には実現できるものではありせん。けれども、分離膜は単なる装置ではなく、脱炭素社会へのカギを握る技術なのです。

為せば成る 技術と行動力が
世界を動かす

CO2ガス分離膜に関しては、過去の偉大な先輩方が世界各地で種まきされてきました。そして時が経ち、大きく芽吹いたものを私たち現役世代が、今、収穫させてもらっています。次は私たち世代が未来のために種をまき、次世代への資産を残していく番です。こういったマインドセットが、UBEの持続的成長を可能にすると信じています。
ただし、どれほど優れた技術を持っていても、勇気と行動力がなければ、この製品を世界に届けることはできません。
インドではコストと性能というある意味で相反する要求、未経験の技術への不安、そして過酷な現地環境と、普通なら躊躇しかねない条件がそろっていました。それでも現場に飛び込み、追加的な支援までやり切ったからこそ、信頼を得ることができたのです。特に勝負所となったのは、プラントが稼働し始めてからも訪問を続け、アフターフォローを怠らなかったことです。その行動が顧客に安心感をもたらし、次のプラントの受注にもつながりました。
技術と行動力。その両方がそろったとき、初めて"不可能に見える課題"は突破できるのです。UBEは、かつて業界では"野武士の集団"と呼ばれていました。今も、そのDNAは脈々と引き継がれています。

次回は「チラノ繊維」の
パーパス体現に迫ります

ページトップへ戻る